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老後の不安について聞かれると、お金のことが不安だと答える方が多いです。また、老後をむかえようとしている方が抱く、健康や将来の介護などの問題にもお金は関係しています。
この記事では、実際に老後にならないと気が付きにくい医療費や介護費用の負担について、どれくらいの金額が必要なのかを解説します。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
老後の悩みはお金だけではない
年金収入だけでは老後資金が2,000万円不足するという金融庁の報告書から、将来の不安がますます高まったという方も多いでしょう。
しかし同報告書によると、実際に老後をむかえている方は異なる悩みを持っているということがわかります。
年代別の老後の不安として、多くの世代で第1位がお金、第2位が健康、第3位が認知症となっているのに対し、60代から70代の回答は、第1位が健康、第2位が認知症、第3位が自らの介護と続き、第4位がお金となっています。
実際に老後をむかえている60代から70代は、お金に不安がないというわけではありませんが、お金よりも健康や認知症への不安を抱えていることがわかります。
今後のライフプランを考えるうえで、万一健康でなくなった時の医療費や認知症を含めた介護にかかる費用についても知っておきましょう。
老後の医療費はどれくらい?
長い老後生活の中では、生活費以外に医療費の負担が思いのほか大きくなっていく可能性があります。
厚生労働省の「年齢階級別1人当たり医療費(平成26年度)(医療保険制度分)」によると、医療費は60歳を超えたあたりから急激に負担が増え始め、90代では年額約116万にものぼります。
健康保険や後期高齢者医療制度によって自己負担が軽減されるとしても、自己負担額は毎年7万円~8万円となり、現役世代よりも大きな負担が発生していることがわかります。
月額でみると6,000円~7,000円の支出が発生することになり、家計の収支に影響を与えることになります。これはあくまでも平均額であり、持病を患ってしまうともっと大きな額を負担する可能性もあります。
■介護費用も問題になってきている
超高齢化社会をむかえている日本だからこそ困っている方が多いのが、介護費用です。
ここでは、介護費用を①一時金、②毎月かかる費用という2つの側面から計算してみましょう。
・介護にかかる一時金
介護にかかる一時金とは、住宅改修や介護ベッド購入などの費用のことです。生命保険文化センターの資料によると、介護に要した一時金の平均は69万円となっています。
・介護に毎月かかる費用
生命保険文化センターによると、介護にかかる毎月の費用は平均7.8万円、介護期間の平均は54.5ヵ月です。この2つを合わせて計算すると、介護に毎月かかる費用の平均は、7.8万円×54.5ヵ月=約425万円です。
先ほどの一時金と合算すると、69万円+425万円となり、介護費用はおおよそ500万円ほど用意しておく必要があることがわかります。
・介護費用は80歳を過ぎてから急激に増える
厚生労働省の「介護費の動向について(平成28年度)」によると、医療費が60歳を超えたあたりから急激に増え始めるのに対し、介護費用は80歳を過ぎたあたりから急激に増え始めます。年齢を重ねれば認知症のリスクが高まります。そのため、介護費用は超高齢化社会をむかえている日本だからこそ直面している問題と言えるでしょう。
老後生活を安定させるには健康寿命も大切
老後生活を安定させるためには健康寿命を意識することが大切です。
健康寿命とは「日常生活が制限されずに生活できる期間」のことを言います。
生命保険文化センターのデータによると、男性の平均寿命80.98歳に対して、健康寿命は72.14歳となっています。女性は平均寿命87.14歳に対して、健康寿命は74.79歳です。
男性を例にして逆算すると、80.98歳(平均寿命)-72.14(健康寿命)=8.84年の期間は何らかの病気や介護などで体の不自由を感じながら生活をすることになると言えます。
今後ますます医療が発達し、医療施設が充実してくるようになると、平均寿命から健康寿命を差し引いた期間は伸びていくことが予想されます。
老後に向けて、医療や介護などにお金がかかることに目がいきがちですが、最近は健康寿命を延ばす方法にも注目が高まっています。厚生労働省の資料でも、健康寿命を延ばすためには、食生活・運動・休養・飲酒・喫煙など生活習慣の改善が重要であるとしています。
また、健康で医療費が少ない地域には「いいコミュニティ」の存在があり、人同士の関わり合いも、健康でいられる期間を延ばす手段として有効とされています。
1度きりの人生なので、身体に不自由なく健康に過ごせる期間はなるべく長く保ちたいものです。老後の医療費や介護費用ばかりではなく、健康に過ごすため趣味や運動を自ら取り入れることも重視して将来のライフプランを立てていきましょう。
医療費、介護費を含めた計画を立てよう
医療費や介護費用は、健康に過ごしている現役世代の時には気が付きにくい支出です。また、仮に気が付いたとしても、日本の公的医療保険制度や介護保険制度は充実しており自己負担が少なく済むので、さほど準備はいらないと感じるかもしれません。
しかし、国民の多くが年金収入よりも生活費が上回り、貯蓄を取り崩しながら生活をしていく可能性がある状態で、仮に医療費の自己負担が毎月3,000円、5,000円というように発生した場合、ますます貯蓄を取り崩すペースが加速してしまいます。
具体的に老後の生活費がいくらかかるのかについては、「 老後の生活費はどれくらいかかる?最低限いくら必要?」で紹介していますので、ぜひこちらも参考にしてください。
老後の生活費に加え、医療費や介護費用がどれくらいかかるのかも早い段階で考えておくと、時間をかけてリスクを抑えながら資産形成をすることができます。
■公的制度への期待はほどほどに
日本の年金制度は「世代間扶養」という考え方を採用しています。今の高齢者の生活費は、今の現役世代が支払っている国民年金保険料や厚生年金保険料でまかなっています。今後、少子高齢化により現役世代が減っていく以上、今以上にもらえる年金額が増えることは考えにくいです。
また公的医療保険制度も同様です。前述の通り、高齢者の医療費が多いにも関わらず自己負担がさほど大きくないのは、健康保険制度や後期高齢者医療制度があるからです。
これに関しても、現役世代の健康保険料で一部をまかなっており、現に国民健康保険料や企業の健康保険組合の健康保険料率は上昇傾向にあります。将来的には健康保険料率のさらなる上昇、または医療費の自己負担が増加する可能性は大いにあります。
老後の生活費だけでなく、医療費や介護費用も余裕をもって準備をしておく必要があると言えるでしょう。
まとめ
「老後2,000万円問題」をきっかけに、老後の生活費に対する不安はますます高まりました。しかし、実際に現在老後の生活を送っている方のなかには、健康や認知症、介護という問題が現実的に近づいているのを感じて不安に思っている方が多いことがわかります。
健康に過ごしている現役世代のうちは気が付きにくいですが、医療費の負担は60歳から急激に増え始めます。介護費用については80歳を超えたあたりから急激に増え始め、一時金や毎月かかる平均的な介護費用をトータルで考えると500万円くらいの金額を想定しておく必要があります。
老後のライフプランを立てるときには、信頼できるデータをもとに医療費や介護にかかる費用も想定して準備をしていきましょう。その準備を開始するのが早ければ早いほど、時間をかけてコツコツとリスクを抑えた資産形成をすることができます。
1度きりの人生なので、病気や介護で体に不自由を感じない期間、すなわち健康寿命を意識することも大切です。趣味の充実や運動、生活習慣の改善などで健康寿命を延ばすことは可能で、それ次第で医療費の負担や認知症などに関連する費用を抑えることもできます。
老後の医療費や介護費用の備えとともに、趣味や運動にかける費用についても老後のライフプランには忘れずに含んでおきましょう。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
【執筆者】
ファイナンシャルプランナー
金子 賢司(かねこ けんじ)
個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、毎年約100件のセミナー講師なども務めるファイナンシャルプランナー。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。CFP、日本FP協会幹事。