老後に必要な貯蓄額はいくら?足りない場合はどうすればいい?

老後に必要な貯蓄額はいくら?足りない場合はどうすればいい?

この記事では、公的年金だけではどれくらい生活費が足りないのかのモデルケースを明らかにします。その上で、老後に向けて資産を増やしていくための方法を3つご紹介しています。

※本記事の内容は公開日時点の情報となります。 法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。

老後に必要な貯蓄額は夫婦で約1,800万円

老後に必要な貯蓄額はいくらなのでしょうか。
総務省「家計調査年報(平成30年)」をもとに、高齢夫婦世帯と単身世帯の必要な貯蓄額を計算してみましょう。

【高齢無職夫婦世帯の場合】

高齢無職夫婦世帯の平均的な年金収入は約20万円、平均的な支出は約26万円で、公的年金だけでは、毎月約6万円生活費が不足する状態です。

また、厚生労働省が発表している「平成30年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は男性で81.25歳、女性で87.32歳です。

仮に60歳から25年間、夫婦2人の老後生活が続くと仮定すると、6万円×12ヵ月×25年間=約1,800万円が不足することになります。

将来何歳まで生きられるかは誰にもわかりませんが、老後に必要な貯蓄額の目安となる金額です。

【高齢無職単身世帯の場合】

平均的な年金収入は約11万円、平均的な支出は約16万円。生活費は毎月5万円不足し、5万×12ヵ月×25年間=約1,500万円が不足します。

平均寿命は現在も少しずつ伸びているため、今後はさらに必要な生活費が多くなると考えられます。

退職金の平均は約2,000万円

年金だけでは不足する生活費を補うものとして、まず挙げられるのが退職金です。では退職金はいくらくらい受取れるのでしょうか。

厚生労働省「平成30年退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、大卒で20年以上勤めた場合の退職金の平均値は1,983万円となっています。平均値で見る限りは、年金との不足額は退職金があれば補うことができると考えられます。

しかし、退職金でまかなえるから貯蓄が無くてもいいということではありません。

総務省「家計調査年報平成30年」によると、支出の詳細は次のとおりです。

非消費支出(税金・社会保険料)、食費、家賃、水道光熱費、家具・家事用品、被服類、医療費、交通・通信費、教育娯楽費、その他。

支出の内容を見ていくと、決して贅沢な支出をしているわけではありませんね。

また、将来の介護費用、急な医療費、家のリフォーム代などの費用は高い確率で必要となるため、退職金はこのような不測の事態のために残しておけると安心です。

そうなると、生活費の不足分が別に必要です。

また、退職金を取り巻く環境が良くなることは考えにくい状況にあります。

大企業が早期退職を募集したり、積み立てている退職金の運用が思わしくなく、退職金を前払いで支給する代わりに将来の退職金制度を廃止したり、減額したりするケースも増えています。

公的年金の金額が今以上に減少することはよく知られていますが、企業の退職金や企業年金も状況は同じであると言えます。

60代の平均貯蓄額はどれくらい?

金融広報委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和元年)」によると、平均金融資産保有額は1,635万円です。

この数字だけだと、多くの方が老後にしっかり備えているように見えます。

しかしその中身を見てみると、60代で金融資産保有額が500万円未満(金融資産非保有23.7%を含む)の世帯は全体の41.0%です。逆に1,000万円以上保有している世帯は40.1%あり、金融資産保有額の準備がある方とない方が極端に分かれていることがわかります。

老後を迎える前に資産を増やす方法は?

まだ老後に向けての貯蓄ができていない、貯蓄の見通しが立たない場合、資産を増やすために何をしていけばいいのでしょうか?

老後の生活のために資産を増やすというと、株式投資や不動産投資などを思い浮かべて、リスクが高いために手を出しにくくなってしまいますが、もっと身近に資産運用ができる方法があります。

まずは、節税をしながら資産を積み上げていく方法が効果的です。

節税をしながら資産を増やす方法として、iDeCo(イデコ)、個人年金保険、生命保険があります。また、積立中に節税効果は無いものの、運用益に税金がかからないつみたてNISAも有効です。

■iDeCo(イデコ)は確実に利用しておきたい

老後に向けて資産を増やす方法の代表格はiDeCoです。iDeCoは個人型確定拠出年金の愛称で、毎月の掛金が全て所得控除になるというメリットがあります。

たとえば、年収500万円、40歳の会社員が月2万円を積み立てて、3%で運用した場合、年間の節税効果は4万8,000円、60歳まで毎年継続すれば20年間で96万円の節税効果となります。

20年間、預貯金で月2万円ずつ貯め続ければ、20年後の預貯金は480万円です。

しかしiDeCoを利用して利回り3%で運用できた場合、96万円の節税効果がありながら、20年後には約657万円に増加する可能性があります。事例のように3%ではなく、利回りを少し下げてリスクの低い運用をしたり、もう少し運用益を狙って高リスクの運用をすることもできます。

iDeCoは老後の資金準備には最も適した制度ではありますが、現状は60歳までしか加入できないこと。またiDeCoを開始すると、積み立てたお金は60歳まで引き出しをすることができないので注意が必要です。

個人年金保険・生命保険の終身保険

保険会社で扱っている個人年金保険や、生命保険の中の終身保険を使った貯蓄方法もあります。

個人年金保険とは、公的あるいは企業年金では不足してしまう額を、自分でまかなう私的年金です。

一般的には、毎月一定の保険料を支払い、60歳以降に年金または一時金として保険金を受け取ります。

終身保険とは、一生涯保障が続く死亡保険です。

解約したときには、それまでに支払った保険料の一部またはそれより多い額が「解約返戻金」として手元に戻ってくるため、貯蓄性があると言われています。 個人年金保険の場合は個人年金保険料控除、終身保険(生命保険)の場合は生命保険料控除の適用となり、毎月の積み立てをしながら、保険料の一定額までは所得控除となり節税効果があります。運用益はそれほど大きくなく、元本から大きく増えることは期待できませんが、安定的な運用が可能です。

つみたてNISA

つみたてNISAも老後の資産を増やす方法として有効です。

20歳以上であれば年齢の上限なくスタートをすることができます。60歳を過ぎてiDeCoに加入できないような場合は、つみたてNISAを利用すると良いでしょう。

2037年までの制度になっており、年間最大40万円までが非課税枠となります。 金融庁が許可した比較的リスク低めの商品ラインナップが特徴です。

老後からでもできる資産寿命の延ばし方

資産運用は老後になってからでは意味がない、老後になって資産運用をしてリスクを取りたくないと考える方がいます。

しかし老後の資産運用については、「資産寿命を延ばす」という考え方も選択肢に入れておきましょう。ここでは、資産寿命を延ばす事例をあげて解説します。

仮に手元に600万円の現金があったとします。このお金を何も運用せずに手元に置いた状態で毎月5万円ずつ消費していけば、この600万円は10年で無くなってしまいます。

しかしこの600万円を仮に1.7%で運用しながら毎月5万円ずつ取り崩していくと、手元資金が無くなるのは11年後になります。

何も運用をしない時に比べて1年間だけ資産寿命を延ばすことができました。

3.1%で運用することができれば2年間資産寿命を延ばすことができます。

ただし、老後の貯蓄額には限りがあります。資産寿命を延ばす目的での資産運用はリスクを抑えた運用を心掛けましょう。

年金の繰下げ支給の活用

年金の繰下げも有効な手段です。

年金の繰下げ支給とは、年金の受け取り時期を遅らせることです。

また厚生労働省のホームページによると、現在の日本の年金制度では、年金の支給開始年齢は原則65歳からです。

この支給開始時期を1ヵ月遅らせるごとに、年金受給額が0.7%増額し、最長で5年間遅らせることができるため、最大で年金額を42%増額させることができます。

仮に年金額が月20万円のケースで、夫婦ふたりとも5年間受取時期を遅らせたとしたら、受け取れる年金額は月額約28万円に増加します。

厚生労働省の発表によると、年金の繰下げ支給は、2022年4月から75歳までに受給開始年齢が拡大され、最長10年間遅らせられます。 最長10年、年金の受給を遅らせた場合、最大支給額は84%まで増額されます。

無理のない程度での労働

60歳で定年退職をした場合、日本の現状の年金制度では支給開始が65歳なので、何もしなければ無収入の時期が5年間発生します。この60歳から65歳の間に、大きく貯蓄額や退職金を減らしてしまうケースがあります。

収入は下がりますが、企業の雇用延長を利用してこの時期の貯蓄額や退職金の減少を抑えることが資産寿命を延ばすことにつながります。

また、趣味を生かして収入を得たり、手作り商品の販売などで毎月少しずつ収入を得るだけでも、資産寿命を延ばすことは可能です。

定年後も働くことは、老後を迎えた時点で貯蓄額が足りないケースにも有効です。

働きながら収入を得つつ、その期間は公的年金を受け取らずに繰下げ制度を使えば、退職後の年金収入増につながります。

まとめ

老後に必要な貯蓄額は夫婦で約1,800万円が目安です。

しかし平均寿命が徐々に伸びているため、必要額も上昇する傾向があります。

公的年金だけではなく、退職金も今よりも金額が上昇することは考えにくいです。働いている間に老後に向けて早い段階から準備をしておくことが大切です。

現状の60代の貯蓄額をみると、準備ができている世帯とそうでない世帯が2極化している傾向にあります。

老後を迎える前に資産を増やす方法としては、iDeCoや個人年金保険、終身保険を用いて節税効果がある運用を行う、つみたてNISAという比較的安全な商品ラインナップでスタートできる投資制度を使うなどの方法があります。

すでに老後を迎えているから運用をしないのではなく、資産寿命を延ばすという考え方も大切です。過度なリスクを取らない運用や、年金の繰下げ制度の活用、無理のない範囲での労働で資産寿命を延ばし、手持ちの限られた資産も有効に使っていきましょう。

※本記事の内容は公開日時点の情報となります。 法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。

【執筆者】
ファイナンシャルプランナー
金子 賢司(かねこ けんじ)

個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、毎年約100件のセミナー講師なども務めるファイナンシャルプランナー。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。CFP、日本FP協会幹事。