親を扶養に入れる条件やメリットとは?デメリットや手続きの流れについても紹介

親を扶養に入れる条件やメリットとは?デメリットや手続きの流れについても紹介

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高齢の親の生活を支えるために、親を扶養に入れることを検討している方は多いでしょう。扶養には税法上と社会保険上の2種類があり、それぞれ条件やメリット・デメリットが異なります。本記事では、親を扶養に入れる際の条件や手続き方法、注意すべきポイントについて詳しく解説します。家計にとって最適な選択をするために、ぜひお役立てください。

※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。

そもそも扶養とはどんな制度?

扶養とは、収入が少ない家族を経済的に支える人が、税金や保険料の面で優遇を受けられる制度です。「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があり、それぞれ目的や受けられるメリットが異なります。ここでは、これら2つの扶養について分かりやすく解説します

1.税法上の扶養

税法上の扶養とは、扶養する人が支払う所得税や住民税などの控除が受けられる制度です。扶養は、家族を養っている人の税負担を軽くする目的で設けられています。

扶養控除が適用されると、税金の計算に使う所得の金額が少なくなるため、結果として納める税金も減ります。親を扶養に入れることで、この税法上の控除を受けられる可能性があります。

2.社会保険上の扶養

社会保険上の扶養とは、扶養される人が自分で健康保険料や年金保険料を負担せずに、公的な健康保険や年金に加入できる制度です。

これにより、収入が少ない家族も健康保険証を持てたり、将来年金を受け取ったりできます。親が年金生活者であっても、一定の条件を満たせば子の社会保険の扶養に入り、自身で保険料を支払わずに健康保険の給付などを受け取れます。

親を税法上・社会保険上の扶養に入れる条件とは

親を扶養に入れるには、国が定めた一定の条件を満たす必要があります。ここでは税法上と社会保険上、それぞれの扶養に入れるための条件を説明します

1.税法上の扶養家族になる条件

親が税法上の扶養家族と認められるには、所得税法で定められた4つの条件をすべて満たさなければなりません。どの条件も「親が子の支援によって生活している」と認められることが前提となっています。

国が定めている税法上の扶養条件は次のとおりです。【参考1】

●条件1:生計を一にしていること

「生計を一にしている」とは、同居・別居を問わず子(納税者)のお金で親が生活している状態を指します。

  • 同居の場合:同じ家で生活していれば、ほとんどの場合「生計を一にしている」とみなされます。
  • 別居の場合:納税者が親の生活費や医療費などを定期的に仕送りしていれば「生計を一にしている」と認められます。

●条件2:親の所得金額が一定基準以下であること

親の年間の合計所得金額は「58万円以下」が基準となっています。なお、2025年12月1日より「扶養控除の所得要件」や「所得税の基礎控除・給与所得控除」が改正されているため、古い情報と混同しないよう注意しましょう。【参考2】

親の収入の目安は以下のとおりです。

  • 給与収入のみの場合:給与所得控除の65万円が適用されるため、年収123万円以下が目安となります
  • 年金収入のみの場合:65歳以上であれば公的年金等控除の110万円が適用されるため、年収168万円までが目安となります

●条件3:青色申告者・白色申告者の「事業専従者」でないこと

子が個人事業主で、親に事業専従者給与を支払っている場合は、税法上の扶養家族にはできません。事業専従者給与とは、青色申告者または白色申告者が、その事業に従事している親族へ支払う給与を指します。

給与を支払っている場合、親はその事業で働いているとみなされ、子が親の生活を支えているとは判断されなくなります。

●条件4:他の親族(兄弟姉妹など)の扶養に入っていないこと

税法上の扶養は重複して申請できません。例えば兄弟で費用を分担して親を支えている場合でも、扶養控除を受けられるのは1人だけです。だれが扶養控除を申請するかを事前に決めておくと、申告の際に混乱を防げるでしょう。

これらの条件をすべて満たせば、納税者は「扶養控除」として所得控除を受けられ、税負担を軽くできる可能性があります。

【参考1】国税庁「No.1180 扶養控除
【参考2】国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について

2.社会保険上の扶養家族になる条件

社会保険上の扶養に入れるかどうかは、親の収入や生活状況を基準に判断されます。税法上の扶養とは異なり、健康保険組合や協会けんぽなど、加入先の保険者が定める基準を満たす必要があります。

一般的な社会保険上の扶養条件は次のとおりです。【参考3】

●条件1:親の年齢と健康保険の加入状況

親を扶養に入れられるのは74歳までです。75歳になると全員が自動的に「後期高齢者医療制度」に加入するため、だれかの健康保険の被扶養者になることはできなくなります。また、親自身が勤め先で健康保険に加入している場合も、他の家族の扶養に入ることはできません。

●条件2:親の年収が一定基準以下であること

親の年間収入は、子が加入する健康保険組合や協会けんぽが定める基準額を下回っている必要があります。

多くの健康保険組合や協会けんぽでは、次のような基準が設けられています。

  • 親が60歳未満の場合:年間収入が130万円未満であること
  • 親が60歳以上の場合(または障害者の場合):年間収入が180万円未満であること

この「収入」には、公的年金(老齢年金、遺族年金、障害年金を含む)やパート収入、不動産収入など、すべての所得が含まれます。扶養に入れるかどうかは、過去の収入実績ではなく「今後1年間の見込み収入」で判断されます。

●条件3:親の生計を子が主に支えていること

「親の生計を子が主に支えている」と認められる必要があり、その判断基準は同居か別居かで異なります。

  • 同居している場合:親の年収が子の年収の半分未満であること
  • 別居している場合:親の年収が上記の基準額(130万円または180万円)未満であること

さらに親の年収が、子からの仕送り額(毎月の送金額×12ヵ月)より少ないことも条件に含まれます。

これらの条件をすべて満たすと、親は子の加入する健康保険の被扶養者として認められ、保険料を負担せずに医療サービスを利用できるようになります。 あくまで一例なので、詳しくは加入している健康保険組合へ確認してください。

【参考3】全国健康保険協会(協会けんぽ)「被扶養者認定フロー図(PDF)

親を扶養に入れるメリット

親を扶養に入れるとどのようなメリットがあるのでしょうか。「税法上」と「社会保険上」それぞれの具体的なメリットを紹介します

1.税法上の扶養に入れるメリット

親を税法上の扶養に入れると、所得税と住民税の控除が受けられ、税金の負担が軽くなります。

例えば、年収500万円の人が70歳以上の親と同居している場合、どのくらい節税できるかを見てみましょう。

  • 所得税の節税額:58万円(控除額)× 10%=約5万8,000円
    ※10%は年収500万円の場合の所得税率に基づく【参考4】
  • 住民税の節税額:45万円(控除額)× 10%=約4万5,000円
    ※住民税の同居老親等扶養控除額は45万円、住民税の所得割率は一律10%【参考5】

この場合、年間で約10万3,000円の税負担が減る計算になります。所得税率は年収が多いほど上がるため、収入が高い人ほど控除による節税効果が大きくなります。

【参考4】国税庁「No.2260所得税の税率
【参考5】広島市「個人市民税の課税の仕組み」、総務省 地方税制度「個人住民税

2.社会保険上の扶養に入れるメリット

親を社会保険の扶養に入れる最大のメリットは、親自身が国民健康保険料を支払わなくてよくなる点にあります。

通常、75歳未満で会社勤めをしていない親は、市区町村の「国民健康保険(国保)」に加入し、毎月保険料を負担しなければなりません。

しかし、子の健康保険の扶養に入ると、親は国保から脱退できるため、保険料の支払いが不要になります。このとき、子の社会保険料が増えることはありません。子の社会保険料は給与に基づいて決まるため、扶養家族が増えてもその額が変わることはないからです。

このように、社会保険の扶養に入れると親の家計に余裕が生まれ、結果として家族全体の支出を抑えることにつながります。

親を扶養に入れるデメリット

親を扶養に入れる場合、税法上の大きなデメリットはありません。一方で、社会保険上の扶養に入れる際には、注意しておきたい点が4つあります。

  1. 医療費の自己負担額が増える可能性がある
  2. 介護保険料の負担が増える場合がある
  3. 介護サービス利用料の負担が増える可能性がある
  4. 労働時間や収入を調整する必要が出てくる

それぞれの内容を、順に確認していきましょう。

1.医療費の自己負担額が増える可能性がある

親を社会保険の扶養に入れると、医療費の自己負担が高くなる場合があります。
これは、高額療養費制度で定める「自己負担限度額」が、親本人の所得ではなく、子の所得(標準報酬月額)で判定されるためです。

具体例として、親の年収別に2パターン見てみましょう。子の年齢は69歳以下で年収500万円(ボーナスなし)、70~74歳の親の医療費総額(自己負担分以外も含む)が月30万円かかった場合を想定して比較します。子の健康保険組合は協会けんぽとします。【参考6】【参考7】

【親の年収が150万円のケース】

  • 国保のままなら医療費の自己負担上限額は約5万7,600円。
  • 子の社会保険(協会けんぽ)の扶養に入ると自己負担上限額は約8万430円
    ⇒ 差額は約2万2,830円の負担増

【親の年収が75万円のケース】

  • 国保のままなら自己負担上限額は約1万5,000円。
  • 子の社会保険(協会けんぽ)の扶養に入ると自己負担上限額は約8万430円
    ⇒ 差額は約6万5,430円の負担増

親の所得が極端に低い場合は、国保での自己負担上限額も低く抑えられています。また、子の所得が高いと、健康保険組合での自己負担上限額が高くなります。そのため、このケースでは住民税非課税世帯の親を扶養に入れると、6万円以上の負担増になるのです。

【参考6】厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(上限額は、年齢や所得によって異なります①70歳以上の方)
【参考7】全国健康保険協会「高額療養費・70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費・高額介護合算療養費」(70歳未満の方の区分)

2.介護保険料の負担が増える場合がある

親を社会保険の扶養に入れると、介護保険料が高くなる場合があります。65歳以上の介護保険料は、世帯の所得に応じて段階的に決められているためです。

親を扶養に入れると、親個人の所得だけではなく、子の所得とも合算した「世帯全体の所得」で判定されます。その結果、これまでより高い段階に分類され、保険料が増えることがあります。

例えば、明石市の基準を参考にして、親が単身世帯で所得が少ない場合と子の扶養に入った場合で、介護保険料の月額を比較してみましょう。【参考8】

  • 親が単身世帯の場合:月額1,767円(年金収入約80万円以下→第1段階)
  • 子の扶養に入った場合:月額6,200円(子の所得合算世帯→第4段階)

このように、扶養に入れると世帯の合計所得が増え、介護保険料の負担が上がるケースがあります。親を扶養に入れる前に、地域の自治体の介護保険料段階表を確認しておくと良いでしょう。

【参考8】明石市パンフレット「よくわかる介護保険」P29~30

3.介護サービス利用料の負担が増える可能性がある

親を社会保険の扶養に入れると、介護サービスを利用したときの自己負担額が増える場合があります。これは、高額介護サービス費制度が「世帯の所得」を基準にして負担上限額を設定しているためです。

扶養に入れると親と子の所得を合算して判定されるため、より高い所得区分に分類されやすくなります。

厚生労働省が定める基準をもとに、年収ごとの上限額を紹介しましょう。【参考9】

扶養状況世帯の年収(所得)区分負担上限額(月額)
扶養あり年収約1,160万円以上14万100円
扶養あり年収約770万~1,160万円未満9万3,000円
扶養あり年収約770万円未満4万4,400円
扶養なしの個人世帯市町村民税非課税かつ公的年金等の収入が190万円以下など1万5,000円

例えば、親が単身世帯のままであれば月1万5,000円を超えた分が戻ってきますが、扶養に入れると4万4,400円までは自己負担になります。親を扶養に入れる前に、どの所得区分にあたるかを確認しておくことが大切です。

【参考9】厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます

4.親の労働時間や収入を調整する必要が出てくる

親を社会保険の扶養に入れる場合、親の勤務状況によっては労働時間の調整が必要になることもあります。これは、社会保険の扶養には「親の年間収入が一定額未満であること」という条件があるためです。

親の年齢や勤めている会社の規模などによって異なりますが、主な目安は次のとおりです。

  • 税法上の扶養の目安:親の年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与収入だけの場合は年間123万円以下)
  • 社会保険上の扶養の目安:親が60歳以上または障害者の場合、年間収入が180万円未満であること

この基準を超えると扶養から外れるため、収入を減らす必要が出てきます。親が現在の働き方や収入を維持したいと考えている場合は、事前によく話し合い、双方が納得した上で行動に移しましょう。

親を扶養に入れる際の注意点

親を税法上の扶養に入れる場合、兄弟姉妹で重複して申請はできません。家族全員で「そもそも扶養に入れるのか」「だれが手続きをおこなうのか」などを事前に確認しておくことが大切です。

また、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」は別です。対象となる条件や手続きの流れが異なるため、それぞれの内容を確認した上で、必要に応じて手続きを進めましょう。

親を扶養に入れるための手続き方法

親を扶養に入れる際は「税法上の手続き」と「社会保険上の手続き」を別々におこなう必要があります。それぞれの流れを、ここで理解しておきましょう

1.税法上の扶養の手続きの流れ

税法上の扶養手続きは、基本的に年末調整または確定申告でおこないます。親の所得が条件を満たしていることを前提に、以下の手順で進めます。

  • 会社員の場合:年末調整で手続きする
    • 会社から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入して提出する(年末調整時に翌年分の書類を提出するケースが一般的)

  • 個人事業主の場合:確定申告で手続きする
    • 第一表の「扶養控除欄」に控除額を記入し、第二表の「配偶者や親族に関する事項欄」にも必要事項を記載、すべて記入したら税務署に提出する

いずれのケースでも、親の所得や年金額を正確に把握した上で手続きを進めましょう。

2.社会保険上の扶養の手続きの流れ

国保には扶養の制度がないため、親を社会保険の扶養に入れられるのは、子が会社員として健康保険(協会けんぽや組合健保など)に加入している場合に限られます。

会社での手続きの流れは次のとおりです。

  1. 「被扶養者(異動)届」を記入する
  2. 続柄確認書類(住民票の写しなど)や収入要件確認書類(年金額の改定通知書の写しなど)を添付する
  3. 別居で仕送りしている場合は、送金の事実が確認できる書類を添付する
  4. 会社へ申請する(会社が健康保険組合などへ申請)
  5. 審査に通れば、親の健康保険証が発行される

審査には日数がかかることがあるため、保険の切り替え時期を考慮し、余裕をもって申請しましょう。

まとめ

親を扶養に入れると「自身の所得税や住民税の軽減」「親の社会保険料の負担減」といった経済的メリットが期待できます。ただし、扶養制度の適用には細かな条件があり、親の収入状況や年齢によって取るべき最善策が異なります。

また、扶養に入れた結果、介護保険料や医療費の自己負担額が増えるなど、家計に思わぬ影響が出る可能性も考慮しなくてはなりません。扶養に入れるかどうか迷った際は、制度の内容を正しく理解し、事前に税金や社会保険料への影響をシミュレーションしておくことが重要です
この記事の内容を参考にして、親の暮らしと自身の家計を守るため、今のうちからしっかりと準備を整えておきましょう。

※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。

田辺 容子(たなべ ようこ)
FPライター。証券会社にて個人向け資産運用のアドバイス業務に約10年間従事。現在は、実務経験と金融資格、自身の投資経験を活かし、金融分野に特化したライターとして活動中。メガバンクのコンテンツ制作や大手金融メディアでの記事執筆など、信頼性が重視される案件を多数手がけている。2級FP技能士、証券外務員一種。

記事提供元:株式会社デジタルアイデンティティ