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日本では、病気やケガをしても費用をさほど心配する必要はありません。これは、日本が「国民皆保険制度」という仕組みを持つ国のためです。
この記事では、そんな国民皆保険制度の一部である「社会保険(健康保険)」と「国民健康保険」について、基礎知識や双方の違い、保険を切り替える際の注意点を解説します。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
国民皆保険制度の目的
国民皆保険制度は、すべての国民が公的医療保険に加入することを義務付けた制度です。その目的は「病気やケガの治療にかかる医療費の自己負担を軽減すること」です。
公的医療保険には、主に会社員が加入する「社会保険」、主に自営業者が加入する「国民健康保険」、75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療制度」などがあります。このように、地域や年齢、職業に応じて異なる健康保険に加入し、保険料をお互いに負担し合うことで、すべての人が必要な医療を受けられる仕組みです。その結果、日本では世界最高レベルの平均寿命と健康水準を実現しています。
医療機関で支払う費用の一部は国が負担してくれる形ですが、自己負担分の割合は年齢や収入によって異なります。
国民皆保険制度における医療費の自己負担割合[参考1]
年齢 | 自己負担割合 | ||
一般所得者等 | 一定以上所得者 | 現役並み所得者 | |
75歳以上 | 1割 | 2割 | 3割 |
70歳~74歳 | 2割 | ||
6歳(義務教育就学後)~69歳 | 3割 | ||
6歳 (義務教育就学前)未満 | 2割 |
参考1:厚生労働省「我が国の医療保険について」
社会保険(健康保険)と国民健康保険の基礎知識
公的医療保険のなかでも、現役世代の加入義務があるのは「社会保険」または「国民健康保険」です。基本的な知識として、こちらではそれぞれの保険の主な特徴をご紹介します。
1. 社会保険(健康保険)とは
社会保険は、会社員・公務員・教職員といった企業・国・地方団体などに雇用されている方と、その家族が加入する公的医療保険です。保険料は会社と半分ずつ負担する「労使折半」が原則で、世帯主の収入に応じて決まります。[参考2]
社会保険には、勤め先によって主に次の4種類があります。
社会保険(健康保険)の主な種類[参考3]
種類 | 主な加入対象者 |
協会けんぽ | 中小企業のサラリーマンとその家族 |
健康保険組合 | 大企業のサラリーマンとその家族 |
船員保険 | 船舶会社に勤める船員 |
共済組合 | 公務員や私立学校の教職員とその家族 |
参考2:協会けんぽ「費用の負担」
参考3:厚生労働省「我が国の医療保険について」
2. 国民健康保険とは
一方の国民健康保険は、主に自営業者やフリーランス、無職の方、その家族などが加入する公的医療保険です。保険料は全額自己負担で、世帯の収入や資産、被保険者数などに応じて世帯単位に算出されます。
国民健康保険には、主に次の2種類があります。
国民健康保険の種類[参考4]
種類 | 主な加入対象者 |
都道府県・市町村国保 | その地域に住む自営業者、年金生活者、非正規雇用者など |
国保組合 | 開業医、建築業者など特定の職種の方 |
参考4:厚生労働省「我が国の医療保険について」
社会保険(健康保険)と国民健康保険にはどのような違いがあるの?

社会保険と国民健康保険との主な違いは、次の5つの点です。
- 運営主体(保険者)
- 加入できる対象者
- 保険料の計算方法
- 扶養の考え方
- 保障内容
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 運営主体(保険者)の違い
社会保険と国民健康保険でまず大きく違うのは、それぞれの運営主体(保険者)です。会社員などが加入する社会保険は、加入者数や勤務先に応じて「全国健康保険協会(協会けんぽ)」「健康保険組合」「共済組合」のいずれかが運営しています。
一方、自営業者や退職者の方などが加入する国民健康保険の運営元は「住んでいる市区町村」などです。国保組合については、開業医など特定の職種ごとに作られた「国民健康保険組合」がそれぞれ運営しています。
2. 加入できる対象者の違い
社会保険と国民健康保険は、加入できる対象者や条件にも違いがあります。
社会保険の加入対象者は、サラリーマンなど「被雇用者」とその扶養家族です。また、これらの勤務先で働くパート・アルバイトの方で、以下の条件をすべて満たす場合には加入対象となります。
社会保険(健康保険)の加入対象となる条件[参考5]
- 従業員数51人以上の企業で働いている
- 週の勤務時間が20時間以上
- 給与が月額88,000円以上(通勤手当、残業代、賞与は除く)
- 2ヵ月を超えて働く予定がある
- 学生ではない
一方、国民健康保険の加入対象者は、自営業者・無職の方など「社会保険や高齢者医療制度に加入していない方」です。上記の条件を満たさないパート・アルバイトの方も加入対象です。ただし、生活保護を受けている方などは、別の医療費補助制度が適用されるため、国民健康保険の対象外となります。[参考6]
参考5:厚生労働省「事業主のみなさまへ 法律改正によりパート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります。」
参考6:厚生労働省「国民健康保険の加入資格について」
3. 保険料の違い
社会保険と国民健康保険では、保険料の負担感に大きな違いがあります。会社員が加入する社会保険では、保険料の半分を企業が負担してくれます。一方、自営業者の方などが加入する国民健康保険では、全額自己負担となります。
また、保険料の計算方法も異なり、社会保険は被保険者のみの収入を基準に、国民健康保険では世帯の収入や資産などに応じて計算されます。
では、それぞれの具体的な計算方法を説明してきましょう。
3.1. 社会保険(健康保険)の計算方法
社会保険の保険料は、基本的に「標準報酬月額(等級別)×保険料率」で計算されます。標準報酬月額とは、4月~6月の給与を元に決められた金額です。毎年7月1日に決定され、その後の9月から翌年の8月までの保険料の計算に適用されます。保険料率は一律で、40歳~64歳の方にはここに「介護保険料率」がプラスされます。[参考8]
例えば、協会けんぽ(東京支部)に加入している20歳の方で、標準報酬月額20万円の場合、保険料額は以下のようになります。
社会保険料(健康保険)の計算例[参考9]
・保険料額
20万円×9.91%=1万9,820円(毎月の自己負担額9,910円)
参考8:協会けんぽ「標準報酬月額の決め方」
参考9:協会けんぽ「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
3.2. 国民健康保険の計算方法
国民健康保険の保険料は、世帯の被保険者ごとに「基礎賦課額(医療分)+後期高齢者支援金等賦課額(支援金分)」で計算され、最終的に世帯単位で算出されます。40歳~64歳の方には、ここに「介護納付金賦課額(介護分)」も加わります。市区町村によって異なりますが、それぞれの所得に応じた「応益割」と負担能力に応じた「応能割」があり、これらを組み合わせたものが一般的です。
例えば、東京都新宿区に住んでいる自営業の独身20歳の方で、給与収入240万円(給与所得160万円)の場合、保険料額は以下のようになります。
国民健康保険料の計算例[参考10]
・均等割額
4万7,300円×1人(医療分)+1万6,800円×1人(支援金分)=6万4,100円(A)
・所得割額(総所得金額等160万円-基礎控除額43万円=算定基礎額117万円)
117万円×7.71%(医療分)+117万円×2.69%(支援金分)=12万1,680円(B)
・保険料年額
(A)+(B)=18万5,780円(1ヵ月あたりの自己負担額1万5,482円)
同じ年齢で同等の年収でも、社会保険と国民健康保険では保険料の負担感が違うことがわかります。
参考10:東京都新宿区「保険料の計算例について」
4. 扶養の考え方の違い
社会保険と国民健康保険では、扶養に関する考え方も大きく異なります。
社会保険では、家計を共にしている家族(配偶者や子どもなど)を自身の扶養に入れることが可能です。被扶養者になれるのは、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金受給者は180万円未満)で、同居の場合は被保険者の収入の半分未満などの条件を満たす家族です。被扶養者は何人いても保険料は変わらず、被保険者分の費用だけで済みます。[参考11]
一方、国民健康保険には扶養の概念はなく、同じ世帯にいる場合でも家族がそれぞれの被保険者として扱われます。世帯人数が多い場合、社会保険であれば1人分の保険料で複数人分の保険をまかなえるのに対して、国民健康保険は世帯全体で負担する保険料が多くなるのです。
参考11:けんぽ協会「被扶養者とは?」
5. 保障内容の違い
社会保険と国民健康保険では保険の運営元が異なるため、加入条件や保障内容などにも違いが出てくることになります。
社会保険には、病気やケガで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」や、出産時に支給される「出産手当金」といった給付金制度があります。一方、国民健康保険にはこれらの制度はありません。[参考12]
医療費の自己負担割合や高額療養費制度、出産育児一時金など共通している保障もあるものの、全体的に見れば社会保険の方が手厚い保障といえます。このため、国民健康保険の加入者は、労働ができない場合に対する経済的支援が少なくなることも理解しておく必要があるでしょう。[参考13]
参考12:けんぽ協会「保険給付の種類と内容」
参考13:厚生労働省「国民健康保険の給付のしくみ」
保険を切り替える際の注意点

退職や転職などによって、加入する保険を切り替える必要がある場合もあります。社会保険から国民健康保険へ、または国民健康保険から社会保険へ切り替える際には、次の点に注意しましょう。
1. 社会保険(健康保険)から国民健康保険
社会保険から国民健康保険への切り替えが必要になるのは、主に会社を退職したときです。国民健康保険への加入手続きは、お住まいの市区町村役場にて、原則自分でおこないます。その際に注意したいのは、以下の4つです。
- 国民健康保険への加入手続きの期限は、退職日の翌日から14日以内。
- 加入手続き時には、社会保険に加入していた家族全員の「資格喪失証明書」または「退職証明書」が必要。
- 加入手続きが遅れると延滞金が発生する可能性がある。
- 社会保険の健康保険証を会社へ返却する必要がある。
国民健康保険への加入手続きで必要となる「資格喪失証明書」は、会社が自治体へ提出してくれる場合もあります。発行されない場合は、会社または年金事務所より取得しましょう。
2. 国民健康保険から社会保険(健康保険)
国民健康保険から社会保険への切り替えが必要になるのは、就職したとき、労働時間などの増加により社会保険への加入対象者となったときです。
社会保険への加入は会社が手続きしてくれますが、国民健康保険からの脱退手続きは、お住まいの市区町村役場にて自分でおこなう必要があります。その際に注意したいのは、以下の3つです。
- 国民健康保険からの脱退手続きの期限は、入社日などより14日以内。
- 脱退手続き時には、社会保険に加入した家族全員の「資格確認書」または「資格情報のお知らせ」が必要(コピー可)。
- 脱退手続きをおこなわないと、保険料が課税され続ける可能性がある。
万一、手続きが間に合わずに国民健康保険料を払い過ぎた場合でも、社会保険に切り替わったことが確認できた後に返金されます。手間を増やさないためにも、できるだけ期限内に手続きを済ませましょう。
まとめ
国民皆保険制度のもと、日本では、地域や年齢、職業に応じて決められた公的医療保険に加入する必要があります。主に会社員が加入する社会保険(健康保険)と、自営業の方などが加入する国民健康保険では、運営主体(保険者)が異なるため、加入できる対象者、保険料の計算方法、扶養の考え方、保障内容などに違いがあることを押さえておきましょう。
退職や転職などにより、保険を切り替える場合もあるかもしれません。その際には適切な手続きを踏む必要がありますので、仕組みや注意点を事前に確認しておくことをおすすめします。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
是枝花名子(これえだ かなこ)
FPライター。大学卒業後、大手生命保険会社にて法人営業を担当。住宅ローンの繰り上げ返済、子どもの教育資金や老後資金作りを極めるため、改めてFP技能士を取得。専門知識と主婦目線を活かした記事執筆が好評を呼び、現在は主にメガバンク、大手不動産サイト等にて保険・不動産・翻訳ライターとして活動中。2級FP技能士
記事提供元:株式会社デジタルアイデンティティ