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iDeCoは、積み立てるときだけでなく、「どう受け取るか」でも手取り額が大きく変わる制度です。出口戦略を考えずに受け取ると、税負担が想定以上に重くなり、手取り額が大きく減る可能性があります。
さらに2025年度の税制改正により、これまでの出口戦略を見直す必要が出てきました。
この記事では、iDeCoの基本的な受け取り方から、改正後に気を付けたいポイントまで分かりやすく説明します。自分に最適な受け取り方法を今のうちに確認しておきましょう。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
iDeCoの出口戦略とは

iDeCoは「積み立てて終わり」ではなく、受け取り方によって最終的な手取り額が大きく変わる制度です。ここでは、iDeCoの「出口戦略」とは何か、基本的な考え方を解説します。
1.iDeCoにおける「出口戦略」の意味
iDeCoにおける「出口戦略」とは、積み立てた資産を60歳以降に受け取る際「いつ・どのように受け取るか」をあらかじめ設計することです。
事前に計画を立てずに受け取ると、想定より多くの税金を納めることになるなど、手取り額が減ってしまう場合があります。将来のライフプランに合わせて、税金の負担を抑えながら受け取り方を考えておくことが大切です。
2.受け取り方で税金(手取り額)が変わる理由
iDeCoの受け取り方によって手取り額が変わるのは、適用される税金の控除制度が異なるためです。
iDeCoの資産を受け取る際には税金がかかりますが、その負担を軽くするための仕組みが「控除」です。例えば、一時金としてまとめて受け取る場合は「退職所得控除」、年金形式で分割して受け取る場合は「公的年金等控除」が適用されます。
適用される控除や控除額が変わることで、最終的な手取り額に数十万円以上の差が出ることもあります。受け取り方法を決める前に、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
iDeCoの3つの受け取り方と控除の違い

iDeCoの資産は、受け取り方によって税金の計算方法が異なります。ここでは、3つの受け取り方の特徴と、それぞれに適用される控除について解説します。[参考1]
参考1:iDeCo公式サイト「iDeCoってなに?」
1.一時金で受け取る場合:退職所得控除
一時金での受け取りは、iDeCoで積み立てた資産を、60歳以降に一括で受け取る方法です。
一時金で受け取る場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
- メリット
・住宅ローンの完済など、まとまった支出に使える
・控除額が大きい - デメリット
・一度にまとまったお金が手に入るため、無計画に使ってしまうリスクがある
・退職金がある場合、退職所得控除を超えて、想定より税負担が大きくなる可能性がある
iDeCoを一時金として受け取る場合、税金の計算は退職金と同じ扱いになります。このとき使えるのが「退職所得控除」という仕組みです。
退職所得控除とは
退職金にかかる税金を大きく減らせる仕組みです。長く働いた人ほど(iDeCoの場合は「加入年数」が長いほど、)控除額が増えます。
控除額の計算式
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
iDeCoの場合は「勤続年数=加入年数」として計算します。
控除額を超えた場合
退職金が控除額を超えた場合、超えた分の2分の1に所得税と住民税がかかります。
例:退職金が控除額より200万円多い場合、税金がかかるのは100万円分のみ
退職金とiDeCoを同時に受け取る場合の注意点
勤続年数とiDeCoの加入期間が重複している場合、合算した年数で1つの退職所得控除額を計算します。なお、重複している年数は二重にカウントできません。
例:勤続30年・iDeCo加入20年で期間が15年重複している場合、合計35年で計算する。
また、退職所得控除の「5年ルール」から「10年ルール」への変更については後述します。
2.年金で受け取る場合:公的年金等控除
年金での受け取りは、iDeCoで積み立てた資産を一定期間にわたって、少しずつ分割して受け取る方法です。
年金で受け取る場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
- メリット
・安定した収入になるので家計管理がしやすく、長期間にわたって生活費にあてられる - デメリット
・受け取っている間、口座管理手数料がかかり続ける
・年間の所得が増えることで、国民健康保険料などの負担が増える場合がある
iDeCoを年金として受け取る場合、税金の計算は国民年金や厚生年金と同じ扱いになります。このときに使えるのが「公的年金等控除」という仕組みです。
公的年金等控除とは
年金収入にかかる税金を軽減できる仕組みです。年齢や年金収入額によって、控除額が変わります。
控除額の主な計算式(65歳以上の場合)
- 年金収入110万円以下:全額控除(税金がかからない)
- 年金収入110万円超330万円未満:110万円控除
- 年金収入330万円以上:収入に応じて控除額が変わる
控除額を超えた場合
年金収入が控除額を超えると、超えた分が「雑所得」として扱われ、所得税と住民税がかかります。
例:65歳以上で年金収入が150万円の場合「150万円-110万円(控除額)= 40万円」となり、40万円に税金がかかります。
複数の年金がある場合の注意点
国民年金や厚生年金など、ほかの公的年金も受け取っている場合は、iDeCoの年金と合算して税金が計算されます。合算した収入が控除額を超えた分に、税金がかかります。
例:65歳以上で年金収入が150万円、iDeCoの年金が50万円の場合「150万円+50万円-110万円(控除額)= 90万円」となり、90万円に税金がかかります。
3.一時金と年金を併用する場合
一時金と年金の併用は、一部を一括で受け取り、残りを分割で受け取る「いいとこ取り」のプランです。「旅行資金として100万円は一括で、残りは生活費として年金で」というように、自分の計画に合わせて柔軟に設計できます。
一時金と年金を併用する場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
- メリット
・ライフイベントに合わせた受け取り方ができる
・退職所得控除と公的年金等控除の両方を活用できる - デメリット
・どのタイミングで、いくらずつ受け取るかによって税額が変わるため、計画を立てるのが複雑
適用される控除について
この方法では、2種類の税金の控除を組み合わせることができます。
- 最初に一括で受け取る部分:退職所得控除
- その後、年金として受け取る部分:公的年金等控除
一時金と年金を併用する場合の注意点
受け取り時期や金額の組み合わせによって税負担が変わります。一時金の場合、退職金と同時に受け取ると、退職金とiDeCoの一時金受取額との合計額で退職所得控除は計算されるため、控除を上回ってしまう場合も考えられます。一方年金受け取りの場合は、公的年金の予定額とを計算しなければ、公的年金等控除を上回ってしまう可能性もあります。併用の場合は、事前にシミュレーションした上で配分を慎重に決めましょう。
税制改正で変わるiDeCoの出口戦略
2025年度の税制改正により、退職所得控除に関するルールが見直され、従来のiDeCoの節税戦略にも影響が出ています。ここでは、今回の改正で何が変わったのか、最新の出口戦略について解説します。
1.これまでの代表的な「5年ルール」戦略とは
これまでiDeCoの節税対策として広く知られていたのが「5年ルール」を活用した戦略です。これは、退職所得控除について、退職金などを受け取ってから5年以上経過している場合に、再び退職金などを受け取った際には、最初と同条件の所得控除を受けられる制度を活用しています。例えば60歳でiDeCoを受け取り、65歳で会社の退職金を受け取るよう時期を5年以上あけることで、それぞれの退職所得控除を効率的に活用することを狙った方法です。
以前の税制では、退職金とiDeCoを同じ年、または近い時期に受け取ると、控除枠を使い切ってしまい、税金が高くなってしまうケースがありました。
そこで「先にiDeCo → 5年あけて退職金」という受け取り方が、定番の出口戦略として注目されていました。
2.控除の通算ルール見直しで何が変わった?
2025年の税制改正により、iDeCoと退職金の控除に関する通算ルールが見直されました。従来の「5年ルール」が使えなくなり「10年ルール」と呼ばれる考え方に変わっています。
具体的には、iDeCoと退職金の受け取りを10年以上あけないと、控除の一部が重複しているとみなされ、使える退職所得控除額が減る可能性が出てきました。
10年以上あけるには、60歳でiDeCoを受け取り、退職金は70歳以降に受け取る必要があります。しかし、退職金の受け取り時期は会社の就業規則で決まっていることが多く、個人の意思で遅らせるのは現実的ではありません。
結果、iDeCoの受け取りを遅らせて退職所得控除額を復活させる戦略は、使いにくくなっています。
実際に、ルール変更で税額がどの程度変わるのか、具体例で確認してみましょう。
条件
先にiDeCoを受け取って、5年後に退職金を受け取る
- 60歳でiDeCo800万円(積立20年)
- 65歳で退職金1,500万円(勤続30年)
改正前(2025年までの5年ルール)
- iDeCo、退職金の順で受け取る間隔が5年あいているため控除枠がリセットされる
・iDeCoの退職所得控除額計算
40万円×20年(積立年数)=800万円
・退職金の退職所得控除額計算
800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
→どちらも退職所得控除額内のため、課税額は0円
改正後(現行の10年ルール)
- iDeCoと退職金の受け取り間隔が10年未満のため、退職金の控除枠が700万円に減少
1,500万円(本来の控除枠)- 800万円(重複期間の控除額)= 700万円(使える控除枠) - 退職金について、控除枠からあふれた分の半分が課税対象となる
(1,500万円 − 700万円)÷ 2 = 400万円 - 所得税や住民税を計算
所得税:400万円 × 20% - 427,500円 = 372,500円
復興特別所得税:372,500円 × 2.1% = 7,822円(小数点以下切り捨て)
住民税:400万円 × 10% = 400,000円 - 合計税額は780,322円
→ 約78万円の税金が発生
受け取り額が退職所得控除額を超える場合は「年金受け取り」や「一時金と年金の併用」といった方法も含め、自分に合った受け取り方を検討しましょう。
参考2:財務省「令和7年度税制改正の大綱」6その他(国税)
国税庁「令和8年分 源泉所得税の改正のあらまし」P5
3.新ルールでも影響を受けないケース
従来の「5年ルール」が使えなくなったとはいえ、すべての人が新ルールの影響を受けるわけではありません。
以下のような人は、従来通り非課税、もしくは影響を受けずに受け取れる可能性が高いと考えられます。
- 退職金がない人(自営業・フリーランスなど)
- iDeCoと退職金の合計額が、退職所得控除の枠内に収まる人
- iDeCoを年金(分割)で受け取りたい人
このように、改正後のiDeCoの出口戦略では「退職金と何年あけるか」より「受け取り額が控除枠を超えるか」が重要になります。
受け取り直前にやるべき準備
iDeCoで積み立てた資産は、受け取り直前まで市場の動きによって価格が変動します。受け取るタイミングで資産が大きく目減りする事態を避けるため、事前に意識しておきたい2つの対策をご紹介します。
1.リスクを徐々に下げる運用を意識する
受け取り開始年齢が近づいてきたら「増やす」運用から「守る」運用への切り替えを検討する時期です。具体的には、値動きの大きい商品と安定した商品のバランスを見直します。
iDeCoは受け取る直前まで運用が続くため、相場が好調なら資産が増える可能性がある一方、急落によって資産が減るリスクもあります。
こうした直前の価格変動リスクをコントロールする手段として有効なのが、運用商品を入れ替える「スイッチング」です。例えば、これまで積極的に運用してきた株式投資信託を、少しずつ定期預金などの元本確保型商品へ移すことで、相場変動の影響を受けにくくなります。
50代後半など、受け取りが視野に入ってきたら資産配分を確認し、安定重視のポートフォリオへの見直しを検討しましょう。
2.暴落時は受け取り時期を遅らせるのも有効
もし、資産を引き出すタイミングで相場が大きく下落してしまったら、受け取り開始時期を遅らせるのも有効な選択肢です。
iDeCoは、原則として60歳から75歳までの好きなタイミングで受給を開始できます。そのため、相場の回復を待ってから受け取ることも可能です。
ただし、以下の点に注意して慎重に判断しましょう。
- 一度受給を始めると、あとから受給期間や年金額の変更は原則できない
- 受け取りを先延ばしにしている期間中も、毎月口座管理手数料が差し引かれる
- 受給開始の最終期限である75歳時点で相場が暴落していた場合、それ以上待つことはできない
これらの注意点を踏まえ、家計状況や相場環境を総合的に考慮し、最適なタイミングを見極めましょう。
【パターン別】自分に最適なiDeCoの出口戦略はどれ?
iDeCoの受け取り方は、働き方や収入状況によって最適な選択が異なります。ここでは3つのパターンに分けて、それぞれに適した出口戦略の例をご紹介します。
1.会社員におすすめの受け取り方
会社員の方は、勤務先の退職金とiDeCoの受け取り方をセットで考えるのが基本です。同じ年に両方を一時金(一括)で受け取ると、税負担が軽くなる「退職所得控除」の枠を超え、税金がかかってしまうためです。
以下のケースを参考に、自分にとって最適な受け取り方を見つけましょう。
1.1.一時金で受け取るケース
iDeCoを退職金と同じ年に、一括でまとめて受け取る方法です。受け取り額の合計が退職所得控除額より少ない場合、全額が非課税になります。
【向いている人】
退職金とiDeCoの合計が、退職所得控除内に収まる人
【具体例】
- 退職金:1,000万円
- iDeCo:300万円
- 退職所得控除:1,500万円(勤続年数30年がiDeCo加入期間と完全に重なっていると仮定)
この場合、合計1,300万円が控除枠内に収まるため、同じ年に両方とも「一時金」で受け取るのがおすすめです。
1.2.併用(一時金+年金)で受け取るケース
iDeCoの一部を一時金、残りを年金として受け取る方法です。退職所得控除の枠に収まる分だけを「一時金」とし、そこからあふれる分を「年金」にして公的年金等控除を利用することで、全体の税負担を抑えられます。
【向いている人】
退職金とiDeCoを合計すると、退職所得控除を超えてしまう人
【具体例】
- 退職金:1,200万円
- iDeCo:500万円
- 退職所得控除:1,500万円(勤続年数30年がiDeCo加入期間と完全に重なっていると仮定)
退職金1,200万円を受け取る年に、iDeCoは、500万円のうち300万円を一時金で、超過する200万円を「年金」で受け取るのがおすすめです。
1.3.年金で受け取るケース
iDeCoを5年〜20年程度に分割し、定期的に受け取る方法で、公的年金等控除を利用できます。
【向いている人】
退職金だけで退職所得控除を使い切ってしまう人
【具体例】
- 退職金:1,500万円
- iDeCo:500万円
- 退職所得控除:1,500万円(勤続年数を30年と仮定)
この場合、退職金だけで控除枠を使い切ってしまうため、iDeCoを年金形式で受け取ると、税負担が軽くなります。
ただし「60歳以降も現役並みの給与収入がある場合」や「iDeCoの受取額が大きい場合」は、年金として受け取るとかえって不利になる場合があります。毎月の収入が増えると、税負担が一気に大きくなるからです。税額計算は受け取り方や収入状況によって結果が大きく変わるため、判断に迷う場合は税理士などの専門家へ相談されることをおすすめします。
2.フリーランス・自営業におすすめの受け取り方
フリーランスや自営業の方は、iDeCoを退職金代わりとして一時金で一括して受け取るのが有力な選択肢です。他に退職金がない場合が多いため、退職所得控除の枠を最大限に活用し、税負担を大きく軽減できるメリットがあります。
ただし、事業所得の状況によっては年金形式も有効です。会社員と異なり厚生年金がないため、公的年金等控除の枠が余りやすく、非課税枠を活かしやすいメリットがあります。
- 一時金(一括)受け取り:退職所得控除をフル活用し、税負担を抑える
- 年金受け取り:事業所得が減るリタイア後などに受け取りを開始し、税負担を分散させ、公的年金等控除を有効に活用する
事業の状況や、その年の所得の見込みに合わせて、より有利な方法を選びましょう。
3.専業主婦(主夫)におすすめの受け取り方
ずっと専業主婦(主夫)をされている方や、パート勤務で退職金がない方などは、原則として一時金(一括)で受け取る方法がおすすめです。
勤務先からの退職金がないため「退職所得控除」の非課税枠をiDeCoだけで独占できます。専業主婦(第3号被保険者)の掛金上限(月2.3万円)であれば、順調に運用益が出たとしても控除の枠内に収まるケースが多く、税金ゼロで全額受け取れる可能性が高いからです。
一方、年金形式(分割)で受け取る場合は、税金や社会保険の扶養に影響が出ないよう注意が必要です。パート収入などと合算した上で、以下の3点を確認しておきましょう。
- 税金がかからないか:公的年金等控除や基礎控除の範囲内に収まるか
- 税金の扶養条件に影響しないか:配偶者控除(および配偶者特別控除)の対象となる所得金額を超えないか
- 社会保険の扶養条件に影響しないか:扶養される側の年収は180万円未満(※60歳以上の基準)かつ、配偶者の年収の半分未満に収まるか
専業主婦(主夫)の場合、まずは一時金で受け取れるかを確認し、退職所得控除の枠を大きく超える場合のみ、年金形式との併用を検討すると良いでしょう。
まとめ
iDeCoは積み立てるときだけでなく、受け取るときの「出口戦略」も大切です。一時金、年金、併用のどれを選ぶかで税金の負担が変わり、最終的な手取り額に大きな差が出ます。
さらに、2025年度の税制改正により「5年ルール」と呼ばれる節税方法は、以前のように使えなくなりました。これからは「退職金とiDeCoの合計額が、退職所得控除の範囲に収まるか」がポイントになります。
iDeCoの受け取り方に、だれにでも当てはまる正解はありません。自分の働き方や収入、退職金の有無などに合わせて、慎重に受給方法を検討してください。判断に迷う場合は、税理士などの専門家へ相談されることをおすすめします。
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。法令や情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。
田辺 容子(たなべ ようこ)
FPライター。証券会社にて個人向け資産運用のアドバイス業務に約10年間従事。現在は、実務経験と金融資格、自身の投資経験を活かし、金融分野に特化したライターとして活動中。メガバンクのコンテンツ制作や大手金融メディアでの記事執筆など、信頼性が重視される案件を多数手がけている。2級FP技能士、証券外務員一種。
記事提供元:株式会社デジタルアイデンティティ

